「ラーニング・ラーニング」【vol.03】 レポート
2025年2月1日(土)
【vol.03】『アクセシブルな表現の未来』
ゲスト:中村茜(国際芸術祭「あいち2025」キュレーター(パフォーミングアーツ)/株式会社precog代表取締役)
「ラーニング・ラーニング」【vol.03】 ///
今年9月から11月まで開催する国際芸術祭「あいち2025」に向け「ラーニング」が企画する、「あいち2025」に通ずるテーマを参加者とともに考え深めていく「ラーニング・ラーニング」。第3回目では、「あいち2025」パフォーミングアーツのキュレーターでもある中村茜さんをゲストに、アクセシブルな表現の場について考えていきました。社会にバリアを感じている障がい者や介助者の立場に立ってみることで、より具体的に実感のこもった検討をしていくことができました。
「相手の立場に立つ」ために///

中村さんはアートプロジェクトの企画制作を手がける「precog(プリコグ)」の代表を務めています。2003年に創業し、実験的演劇や舞台芸術のプロデュースを行ってきました。公演先は日本国内だけでなく海外にも広がっています。東京オリンピック2020に向けて、日本財団が主催し開催した「True Colors Festival ─超ダイバーシティ芸術祭─」に関わったことがきっかけで、「アートにリーチしづらい人が身近にいたこと」に気づき、アクセシブルな表現の場をどのように実現することができるのか、舞台芸術の現場で様々な取り組みにチャレンジしています。下記は、Webサイトに掲載されているprecogの紹介メッセージです。precogが、芸術表現の現場において、アクセシブルや包摂的な態度に注目していることがわかります。
私たち「precog(プリコグ)」は、アートプロジェクトの企画・運営を行う制作会社です。
活動テーマは、"横断と翻訳"。近年は"アクセシビリティ"(アクセスのしやすさ)と"インクルージョン"(包摂)にも力を入れ、プロジェクトの同時代性や新たな事業展開を追求し続けています。
アーティストやクリエーター、そしてさまざまな分野の専門家と協働し、芸術体験と観客を鑑賞で繋ぐだけでなく、国際交流・福祉・地域活性・教育普及など多角的なアプローチによって「新しい価値」を生み出し、"表現"の未来をつくります。
*名前の由来 pre(前)とcognition(認識)からなる「予知」という語を人称形らしく変型させた造語で、precog《予知能力者》という意味を持つ。
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precog公式webサイトより
中村さんは「アクセシビリティについて考えることは、コミュニケーションについて考えることと同じです。」と語りかけます。相手の立場に立って考え行動するために、どんなコミュニケーションをとることができるのか、それがアクセシブルな現場をつくっていくと言います。
『他者の靴を履く』(文春文庫、2024年)はブレイディ みかこ(1955-、イギリス在住、保育士、コラムニスト、小説家)が、誰もが生きやすい社会を作るために何が必要かを「エンパシー」の観点からまとめた書籍です。「エンパシー」とは、他者の立場を想像し、汲み取るスキルを指します。似た言葉に「シンパシー」がありますが、こちらは感情的に相手に共感・同意することです。前者は育てることができますが、後者は個々の感受性に由来し、育てにくいとされています。書籍では「エンパシー」のスキルを向上させることが、アクセシビリティの高い社会をつくりだすと論じられています。中村さんは下記の文章を引用して、「ケアすることは誰かを自由にすること」と説明しました。
遊びというのは究極の自由であり、人は誰かを自由にするためにケアするのだと(グレーバー*1は )論を進める。看護師が患者のケアをするのは病を治して患者が自由に動けるようにするためだ。介護士がお年寄りを抱えて車椅子に乗せるのは、寝たきりのお年寄りがベッドから解き放たれて自由に外出できるようにするため。
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()内筆者追記、『他者の靴を履く』より
日本は2022年に、国連から「分離教育」を止めるように勧告を受けています *2 。「分離教育」とは障がいや難病を抱えた子どもたちと、そうでない子どもたちとを別々に分けた環境で教育することを指し、障がいや難病を抱えた子どもたちの様々な出会いや社会経験の場を奪っているとして、問題視されています。中村さんは「障がいや病の有無で環境が分かたれてしまうことは、教育の場だけでなく、就労現場でも起こっています。わたしたちはお互いに関わる機会を失ってしまい、お互いのことをよく知らないまま暮らしています。」と加えます。
自分が履き慣れた靴ではなく、相手の靴を履くことで、相手の立場からものごとを考えてみる。そうした一歩からアクセシブルな場の実現はスタートしていきます。それを実際に体験するため、さっそく「他者の靴を履く」体験を行いました。
*1 デヴィッド・グレーバー(1961-2020、アメリカ、人類学者)。『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店、2020年)、『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』(光文社、2023年)など。公正な世界の実現を訴えた「ウォール街を占拠せよ」(2011年)を主導。
*2 「日本財団ジャーナル」web、「多様な子どもたちが共に学ぶ「インクルーシブ教育」。いま、子どもたちになぜ必要か?」(2024.1.25)参照
「他者の靴を履く」体験///
体験では、肢体不自由、聴覚障がい、視覚障がいの、3つの異なる「靴」を履いてみることになりました。参加者を3つのグループに分け、当事者と介助者の両方を実際に体験しました。中村さんは今回の体験について、「介助をするスキルを身につけるということではなく、相手と自分がどう違うのか、どんなバリアを感じるのかといったことをできるだけ多く発見することが1番の目的です。」と紹介し、「対話のバリエーションがどれくらいあるのかを実践してみたり、作品を"みる"方法がどう違うのかを体験したり、移動においてはどんなバリアがあるのかを確認したり、視野を広げてみてください。」と参加者へ呼びかけました。
①車椅子のグループ(肢体不自由)は、会場であるアートラボあいちを出て街なかを移動し、最寄りの地下鉄の駅を目指し、改札口まで向かってみることになりました。車椅子を押す人と乗る人に分かれ、行きと帰りで役割を交代しました。
②聴覚障がいのグループは、二人ペアになり、お互いが障がい者の立場となって聞こえづらさを体験するため耳栓をつけ、紙とペンを用いた「筆談」で、一緒に作品を鑑賞することに挑戦しました。
③視覚障がいのグループは、当事者(中途失明者の設定)と補助者に分かれ、当事者役はアイマスクをつけ「白杖」を持ち、介助者は「言葉」で移動や作品鑑賞をサポートしました。②と③のグループの鑑賞体験は、どちらも会場である「アートラボあいち」で開催中だった展覧会 *3 の作品を鑑賞しました。
3つのグループが体験した様子を、4コマ漫画風にまとめました。ほとんどの人は、初めての体験となりましたが、なかには仕事として普段から障がいのある方と触れ合っていたり、実際にケアをされていたりする方もいました。しかし、経験値の差によって体験の密度が変わるということはなく、むしろ、お互いに声を積極的にかけあい、気づいたことや疑問などを共有しあうことで、より多くの気づきを得ている様子がありました。



*3 『名古屋芸術大学 工房シリーズ vol.1 PRINTED MATTER -Printing studio in NUA』(2025年1月17日〜3月16日)
ディスカッション
体験の共有とアクセシビリティへのアイディア///
1時間弱の体験後、各グループをシャッフルして5〜6人程度のグループをつくり、体験を共有し、それをもとに「アクセシブルな芸術鑑賞の場を実現するために必要なこと」についてアイディアを出すディスカッションを行いました。
まずは、それぞれの体験から気づいたことが次のように共有されました。(以下、筆者メモより編集抜粋)
①車椅子の体験
● 人通りが多いと動きにくくて、人を避けようと思って裏道に行ったら、今度は道がガタガタしていて大変だった。
● 自転車や車と距離が近く、ちょっと怖かった。
● 駅についてもエレベーターが全然みつからなくて、困った。都会にある駅だからかもしれないけど、エレベーターの外観がオシャレすぎて...エレベーターだということがすぐにわからなかった。
● やっとエレベーターがあった!と思ったら、1箇所しかないし、1台しか乗れなかった。
● 車椅子に乗ると、視線が地面と近くなると感じた。ゴミがいっぱい落ちてるとか、そういうことにも目が届きやすく、気になった。立って歩く時と風景が違うなと思った。
● 立って歩いている人(健常者)からの「視線」が気になった。憐憫が込められているような、「車椅子の人だ」と意識されているような、居心地の悪さがあった。見下ろされる感じになるから、余計にそう感じたのかもしれない。
● 時間内に戻って来れるように、ナビを使って到着予想時刻を気にしていたけど、車椅子だと、介助する人がいても結構時間がかかってしまった。車椅子の移動時間を考慮した、車椅子用のナビがあるといいなと思った *4。
● 移動中、乗っている人と介助している人で会話をするのはちょっと大変だった。
● 自分(乗っている人)が、動きたいように動けるわけじゃない、ということもわかった。どの道を通るかは、介助している人が動きやすいかどうかだなと。
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*4 Google Mapでは「オプション」で「車椅子機能」をオンにすると、バリアフリー情報を案内するサービスがある。時間予測には「車椅子の速度」はまだ反映されていない。
②聴覚障がいの体験
● 筆談は思ったよりも不自由さを感じなかった。むしろ、声による会話よりもたくさん話すことができた気がする。
● ボディランゲージや表情とか、書くこと以外のコミュニケーションについてもチャレンジしたけど、難しかった。とくに、初対面ではボディランゲージはハードルが高いと感じた。家族など近しい人同士なら、伝わりやすくて良いと思う。
● 筆談は声での会話に比べて時間がかかるけど、何を伝えるか、わかりやすいかどうかなど、ちゃんと考えてから伝えられる面もあった。
● 作品をみているときに、知識や経験の差があると、声で伝える時よりも時間がかかった。説明に時間がかかってしまい、作品をどう感じたかとか、お互いの印象などを共有する時間があまりとれなかった。
● 筆談だけだと、移動中にコミュニケーションがとれないことに気づいた。
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③視覚障がいの体験
● 白杖を初めて触ったので新鮮だった。
● 展示室で体験していたが、声が響くうえにみんな近くにいたので、いろんな人の声が重なって聞こえてしまい、(見えない状態では)集中力が必要だった。
● 自分と同行している人の声に慣れる必要があった。
● やはり、移動は大変だった。とくに階段が怖かった。
● 言葉だけで伝えることの難しさを実感した。
● 目の見えない人に言葉で作品を説明したが、「事実」だけを伝えたほうが良いと思っていた。大きさや、何が描かれているかとか、カタチなどをできるだけ忠実に言葉にするほうが、目の見えない人がより正確に想像できると考えていた。でも、途中から「ここは青いです」と言うのを、「ここは優しい感じのする青です」と自分の感覚を入れてみたりした。
● (実際に、感覚を乗せた説明を聞いた人)客観的な視点だけじゃなくて、主観的な感情と一緒に伝えてくれたほうが、妄想がすごく膨らんだ。目でみている時よりも、作品のイメージがもっと膨らんでいたと思う。
● 目の見えない人が、誰かの言葉によって作品を鑑賞するということは、誰かの感性を通して作品に触れるということなんだなと思った。
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アクセシブルな芸術鑑賞の場を実現するためのアイディアは、課題とともに検討されました。共有された体験から出てきたアイディアには、情報や会場にアクセスしやすくすることや、様々なバリアがあることを意識すること、当事者が何を求めているのかを把握することなどがありました。これらのアイディアに共通するのは、「相手への想像力を働かせる」という根本的な部分です。
中村さんは、ケアする側が当事者の主体性を奪う可能性があることも指摘しました。車椅子の体験で「自分(当事者)が道を決められない」という気づきがありましたが、当事者はケアの名目で管理され、自主的な活動の機会や選択肢を持たない場合が多いと言います。また、当事者自身も「仕方ない」と、自身の自主性を投げ出してしまう人もいます。中村さんは、参加者の気づきやアイディアを踏まえたうえで、次のように話しました。「まず相手が何を求めているのかを知るためには、当事者とたくさん会話をすることが必要です。そして、彼らの主体性を引き出し、創造性を豊かにするためには、新しい想像力を働かせなければいけません。」中村さんが考えるケアのかたちが、先に紹介されたように「誰かを自由にするもの」であるということが、より実感のこもったかたちで届いてきたような気がしました。


レクチャー///
アクセシビリティについて
後半は、中村さんがprecogで取り組んできた「アクセシブルな劇場体験」を事例に、「アクセシブルな表現の場」をどう実現できるか、具体的に検討していきました。

「誰も取り残さない社会」を実現させるためには、「平等」ではなく「公平」な考え方が大事であると中村さんは説明しました。「平等」とは全ての人を同等に扱うことを指しますが、「公平」とは個々人の違いや必要性に応じて対応を変え、個々人が同じ機会を得られるようにすることを指します。今の社会が誰に対しても公平に機会や選択肢を提示できているかを考えてみると、健常者を前提としてデザインされている社会の仕組み *5が、さまざまな「バリア」を生じさせていることにも気づきます。
社会に存在するバリア(社会的障壁)には4つの分類があると言います(画像1)。1つ目は「物理的なバリア」。前半で車椅子の体験をしたグループが感じた移動の不便さや、視覚障がいの体験で感じた階段への恐怖などがあてはまります。2つ目は「制度的なバリア」です。障がいによって勉学などが制限され、十分な社会活動の機会が失われていることがあります。3つ目は「文化・情報面のバリア」です。情報保障 *6 が十分でないために、必要な情報を得ることができず、文化に触れる機会が制限されてしまいます。
4つ目は「意識的なバリア」です。これも前半の体験を振り返った時に、車椅子を体験した参加者が指摘していた「憐憫の目でみられているようで心地悪かった」という点に通ずるものです。こうした過剰な哀れみの感覚は、対等な社会参加の妨げになってしまいます。また、マジョリティ側の「思い込み」がマイノリティ側の居心地の悪さを生み出していることもあります。障がいといっても症状や身体の状態は人によって異なります。介助が必要な場合もあれば、そっとしておいてほしい場合もあるでしょう。相手の状況をよく想像し、押し付けにならないよう、何が必要なのかを確認する、対話をしながら相手にとってバリアがあるなら取り除く手伝いをし、必要なければ無遠慮な介助をしない、そうした態度を意識する必要があることにも気づきました。

(画像1)株式会社precogのアクセシビリティガイドブックより
障がいの違いによって、コミュニケーションやサポートの方法も変わります。視覚に障がいがある人の場合、「点字」はよく知られていますが、そのほかにも「同行援護(外出におけるサポートを行う)」や「音声コード(文章の読み上げ音声をデータで提供)」、弱視の人を考慮した文字の大きさやコントラストを意識するといった配慮ができます(画像2)。

(画像2)株式会社precogのアクセシビリティガイドブックより
聴覚障がいのある人へのサポート(画像3)では「手話」のイメージが強いですが、その手話は実は1種類だけではないということを知りました。ろう者同士(音声言語を取得する前に失聴した人)のコミュニケーションで用いられる「日本手話」は、日本語の文法や構成とは大きく異なり独自の文化を持つそうです。「日本語対応手話」は、日本語に対応させたもので「手指日本語」とも呼ばれ、中途失聴者や健聴者はこちらを使う人が多いと言います。日本語の50音を一つずつあらわす「指文字」や、盲ろう者が相手の手話を手で触って読み取る「触手話」もあります。今回体験したように「筆談」を用いたり、コミュニケーションボード(画像4)やスマホ、タブレットなどを用いることもあります。災害時に配慮したいのが、音声によるアナウンスでは情報が行き届かないという点です。光の点滅で知らせるなど、視覚情報によって緊急事態を伝える方策を考えておく必要があります。
アプリケーションを活用することもできます。「UDトーク」は2013年にリリースされた音声認識アプリで、リアルタイムで音声から文字起こしすることで情報保障を行うことができます。「ラーニング・ラーニング」では第1回目より、この「UDトーク」を用いています(画像5)。

(画像3)株式会社precogのアクセシビリティガイドブックより

(画像4)商業施設 theGreenでのイベントに合わせてTHEATER for ALLが制作したコミュニケーションボード(note「多様な人たちが共に楽しみ混ざり合った映画祭 ー初のリアルイベント「まるっとみんなで映画祭」を振り返るー」より・筆者補足)

(画像5)スライドの横にUDトークの画面を投影。日英のバイリンガル表記
車椅子利用者についても、足に障がいがあると思いがちですが、体幹が弱かったり自力での長時間の歩行が困難であったり、一概に障がいの種類を判断することはできません。高齢の人や妊娠している人、小さな子どもなど配慮が必要な人もいます。音や光に敏感な人や、人混みが苦手な人もいます。また、宗教や文化の違い、性的な多様性への配慮が必要な場合もあります。「公平」であるために、それぞれの違いを確認し、何ができるのか相手の要望を聞き、できる範囲で対応する姿勢を持つことが大事ではないでしょうか。
*5 障がいがある個々人の心身の機能がバリアを生じさせる要因だとする考えを「障がいの個人(医学)モデル」と呼び、社会の仕組みによってバリアが生じているという考えを「障がいの社会モデル」と呼ぶ。
*6 障がいの有無に関係なく実質的に同等の情報が確保されるように、字幕や手話、点字や音声ガイドなどを用いて情報を伝達することをいう。
「THEATRE for ALL」の取り組み
2020年、コロナ禍の影響でリアルな場所での活動が制限され、さまざまな動画配信プラットフォームが登場しました。precogでは、アクセシビリティと動画配信(舞台作品の映像や映画作品)をかけあわせた試みとして「THEATRE for ALL」を2021年にスタートさせました。最初に紹介されたように、「True Colors Festival ─超ダイバーシティ芸術祭─」に関わったことが大きな後押しとなって、さまざまなバリアを取り払った包摂的な劇場体験の場を創造することが目指されました。「THEATRE for ALL」はアクセシビリティ、ラーニング、LABという3つの柱で展開しています(画像6)。さまざまな現場で合理的配慮 *7 やアクセシビリティの実践を行っています。

(画像6)「THEATRE for ALL」2021年度活動報告書より(筆者補足)
「THEATRE for ALL」では、バリアフリー型オンライン劇場を展開し、公演等の映像作品の動画に音声ガイドや字幕、手話をつけています。リアルの公演・上映会においても、字幕や音声ガイド、手話弁士(スクリーンの傍で登場人物のセリフや環境音、効果音など音情報を全て手話によって伝える人・画像7)などによって情報保障を積極的に行っています。子どもにも人気がある「タッチツアー」は、公演前に舞台にあがって美術セットを触って空間を確認することができるもので、視覚障がいを持つ人などにとっては、事前に把握できることでより内容がわかりやすくなると言います。公演の内容をわかりやすく紹介する解説会も行っており、ロビーなどで実施するそうですが、障がいの有無や年齢に関係なく色々な人が聞きに来るそうです。
「EPAD *8 ×THEATRE for ALL」では、「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」(「東京芸術祭2023」*9 のプログラムのひとつとして実施)の期間中にユニバーサル上映会(ダイジェスト)を実施したことがあります。そこでは情報保障のサポートだけでなく、ロビーに子どもの居場所をつくってリラックスしながらみることができるようにしたり、入退場自由で鑑賞できるように事前アナウンスをしたりなど、多くの人が安心して参加できるような試みが行われました。

(画像7)手話弁士の様子。撮影:宮田真理子(THEATRE for ALL「手話弁士つき舞台映像の上映会 その新たな可能性--EPAD × THEATRE for ALLユニバーサル上映会開催レポート(前編)」より、筆者補足)
音声ガイドや字幕をつけた公演の例として、中村さんがお薦めしてくれたのは以下の2作品。ガイドの有無で見比べると、情報保障がどのようにされているのかがよくわかります。とくに『もるめたも』は比較的抽象的な作品であり、それをどのように言葉にして伝えるのかも興味深い点でした。
維新派、hyslom『MAREBITO』(2013)
・オリジナル(アクセシビリティなし)
・日本語音声ガイド
・日本語バリアフリー字幕
Reframe Lab『もるめたも』(2021)
・オリジナル(アクセシビリティなし)
・日本語音声ガイド
・日本語バリアフリー字幕
*7 2013年に施行された「障害者差別解消法」では、「行政機関や事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に、負担が重すぎない範囲で障害者の求めに応じ合理的配慮をする」(内閣府webサイトより)ことが定められている。2024年4月1日には「改正障害者差別解消法」が施行され、「合理的な配慮」が義務化された。
*8 EPAD...舞台芸術のアーカイブ事業に取り組んでいる一般社団法人。文化庁や舞台芸術に携わる各種団体と連携し、舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)を進めている。
*9 2023年10月11日(水)〜10月22日(日)、東京芸術劇場 シアターウエストで開催。ユニバーサル上映会:2023年10月14日(土) た組「綿子はもつれる」、2023年10月19日(木) 、マームとジプシー「cocoon」(手話弁士つき)、2023年10月20日(金)・21日(土)蜷川幸雄七回忌追悼公演「ムサシ」
さいごに///
会場からは、障がいを持つ人の主体性をどのように保償できるか、自分自身の体験や経験と繋ぎながら考えていたという声や、全ての人を対象にすることの現実的な困難さと、行き届かないことへのジレンマも話されました。中村さんは実際に実践してきたことを踏まえて「ズレがあるからこそ、話し合うことがとても大事です。当事者と話すこともそうだけど、ケアする側のなか(施設や組織内で)でどう考えているかなどを共有し、マインドを一緒にしておくことがとっても大切だと思います。マインドがそろっていれば、柔軟に対応していくこともできます。」とアドバイスしてくれました。
中村さんが取り組んできたアクセシビリティを垣間見たことで、「あいち2025」のパフォーミングアーツではどのようなアクセシブルな体験が生まれるのか、とても楽しみになりました。ラーニング・キュレーターの辻さんからも紹介があったように、「あいち2022」でも同様に「みえない・みえづらい方のためのツアー」や「筆談ツアー」などの実践がありました。「あいち2025」では単なるバリアフリーにとどまらず、これまで芸術に触れる機会が限られていた方々にも門戸を開き、芸術の価値を社会全体で共有するための取り組みをおこなうそうです。実際にアクセシビリティが実践されている現場に参加する際に、今回の体験やレクチャーを思い出すことで、また多くの気づきが得られるのではないでしょうか。
(レポート|松村淳子)
参考///
● precog公式サイト
● 「美術手帖」web、NEWS「日本財団、東京五輪に向けて「True Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭 -」を開催」(2019年8月24日)
● ブレイディ みかこ『他者の靴を履く』(文春文庫、2024年)
● precog『観光やサービスに関わる人のための合理的配慮とユニバーサルマナーの講座:2024「互いに敬い、共に楽しむ。 ユニバーサルマナーBOOK」』(軽井沢町総合政策課共生社会推進係)
● 【軽井沢町】観光やサービスに関わる人のための合理的配慮とユニバーサルマナー講座 アーカイブ映像(2024年11月実施)
● 内閣府作成リーフレット『「合理的配慮」を知っていますか?』
● 障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト― 「合理的配慮」を知っていますか ―
● 国立アートリサーチセンター『ミュージアムの事例から知る!学ぶ!合理的配慮のハンドブック』(国立アートリサーチセンター、2024年)
● だれも排除しない社会運動へ『みんなでつくる 情報保障 UDトークを使う編』(有志が作成した資料、ドライブよりダウンロード可能)
● UDトーク公式webサイト
● precog、THEATRE for ALL「舞台芸術のバリアを取り除くEPAD × THEATRE for ALL 2023」