今、を生き抜くアートのちから

LEARNINGラーニング

社会とアートと自分をつなぐプラクティス
『勝手に測る、挟まる、抜け出す』うらあやか+小山友也

  • 2022年
うら あやか+小山 友也
アーティストプロフィール
リサーチメンバー
石川真日呂、岩崎はづき、大石理紗子、沖澤英莉菜、奥村美優、鈴木桃寧、服部成美、平山亮太、星光、水野玲奈、宮本真緒、村上聖奈、森本真由
コーディネーター
小倉明紀子

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • うらあやか+小山友也 《勝手に測る、挟まる、抜け出す》 2022
  • 撮影: ToLoLo studio

活動記録

10代から20代の参加メンバーが、2022年4月から芸術祭会期前まで、毎週土曜日・計16回、アートラボあいち内に常設したプロジェクトベース「部室」で、ワークショップやレクチャーを通じて、「アート」「芸術祭」「社会」について、それぞれの経験を結びつけて言葉と身体で掘り下げた。部室でのリサーチやディスカッションの他に「形を全部体に通す」「自分の動きと他人の動きを同等に扱う」「休みの役所で親密なスピーチをする」「勝手に席を作る」などのワークショップが実施された。リサーチリーダーのうらあやかと小山友也は、参加メンバー一人ひとりと向き合い、メンバーが自分がアートや社会との関係のなかにどう挟まっているのかを、様々な仕方で確かめ、自在に出入りできるようになること、すなわち「測る、挟まる、抜け出す」をサポートした。

会期中は参加メンバーが芸術祭の出展作家やボランティアをゲストに招いたラジオ番組「勝手にRADIO」のパーソナリティとして、リサーチの成果に基づいたプログラムを発信した。うらと小山がガイド役となり「勝手にRADIO」は愛知県美術館10階プラスキューブで毎週土曜日に公開収録でライブ配信(youtube)された。プラスキューブでは、常時ライブ配信の記録映像を公開。また、写真や映像、粘土作品など、リサーチ期間に行ったワークショップのアーカイブも展示された。来場者がお便りを投稿できるポストも設置され「勝手にRADIO」の番組内で紹介された。「勝手にRADIO」は、アーティストとプロジェクト参加メンバー、来場者がつくるインタラクティブな場・時間となり、芸術祭の仕組みをひらき活性するプロジェクトとなった。

ワークショップ

  • 開催日程(合計17回)

    4月16日(土)、4月17日(日)、4月23日(土)、4月30日(土)、5月7日(土)、5月14日(土)、5月21日(土)、5月28日(土)、6月4日(土)、6月11日(土)、6月18日(土)、6月25日(土)、7月2日(土)、7月9日(土)、7月16日(土)、7月23日(土)、7月25日(月)

  • 開催場所

    アートラボあいち、愛知芸術文化センター、久屋大通公園他

  • ワークショップ内容
  • 4月16日(土)アートラボあいち

    アーティストによるプロジェクトの説明・自己紹介の後、参加メンバーの自己紹介。芸術祭を軸としたマインドマップを作成し、それぞれ発表を行った。「あいち2022」キュレーター中村史子による「芸術祭に自分はどう挟まっているか」をテーマにしたレクチャーも実施された。

  • 4月17日(日)アートラボあいち、愛知芸術文化センター

    参加メンバーの自己紹介と前日のマインドマップ作成の続きを実施。アートラボあいちから芸術祭会場となる愛知県芸術文化センターまで「(人間にではなく)状況とかに対しての質問を考え」ながらの路上観察やセンターの施設見学を行い、それぞれの発見や感想を共有した。

  • 4月23日(土)アートラボあいち

    「自分のためになる質問」をテーマに疑似インタビューのワークを行なった。また、「鑑賞」を発信するために行うインタビュー以外の企画についても話し合った。実際に質問を考え、その回答からさらに深い質問をするワークも行った。

  • 4月30日(土)アートラボあいち

    「勝手にRADIO」に向けて、芸術祭参加アーティストのリサーチを各自で行い、それぞれ発表した。質問・疑問を考え、参加メンバー自身が中心となってディスカッションを行い、今後の各活動のガイドラインも作成した。

  • 5月7日(土)オンライン、アートラボあいち、久屋大通公園

    オンラインによるミーティングを実施。希望する参加メンバーはアートラボあいち、久屋大通公園に集まりオンラインミーティングに参加した。参加アーティストのリサーチとその内容の発表・ディスカッションを継続して行った。

  • 5月14日(土)アートラボあいち、久屋大通公園他

    参加アーティストのリサーチとその内容の発表・ディスカッションを継続して行ったほか、「自分の動きと他人の動きを同等に扱う」身体を用いたワークをアートラボあいちのオープンスペースで実施。街中では植木鉢やマスキングテープなど任意の無機物を街に持ち出して、その物と共に考え事をしてくるワーク「異種との絡まりで考え方はどう変化するか?」を実施。

  • 5月21日(土)アートラボあいち、街中

    街中で「形を全部体に通す」ワークを実施。メンバーたちは景色を形の連なりとして捉え、その形を体に通すイメージをすることで、物の形自体を体感するトレーニングを行った。最初は周囲の形に呼応するように身体を動かしながら、後半はそれぞれ一箇所にとどまりながら景色を見た。「事情や枠組みを動きに変換して体で受け止めてみる」ワークでは、自分が「挟まっていること(社会的な関係の上で簡単には抜け出せないネガティブなもの)」をメンバー同士の身体を用いて再現した。

  • 5月28日(土)アートラボあいち、久屋大通公園ほか

    この日のテーマは「自分と美術館の間にあるものを見にいく」。野外の集団、個人で居座れそうな場所を探したり、ひとりで1時間くらい調べ物ができる環境をみつけ、参加アーティストを調べ、発表した。また「自分の考えを街に混ぜてくる」ワークとして、街をリサーチしつつ話しながら歩き、アートに関心のある人ない人どちらでもない人が居合わせる街とそこで行われる芸術祭のことを考えながら街を眺め、言葉にするワークを実施した。

  • 6月4日(土)アートラボあいち、久屋大通公園、愛知芸術文化センターほか

    アートラボあいちで参加アーティストのリサーチと発表を行った後、街中でワークを実施。屋外や公共施設の入り口などで、各自が「挟まって」いる事柄についてスピーチした。路上や愛知芸術文化センターでそれぞれ「挟まる場所」を発見し、実際に挟まってみる活動を行った。

  • 6月11日(土)アートラボあいち

    参加アーティストのリサーチと発表を実施した後、粘土を使ったワークショップを行った。各自「挟まって」いることを粘土で形にした。問題の形や構造、力のかけ具合などを説明し合い意見交換をした。

  • 6月18日(土)アートラボあいち

    アーティストのリサーチと発表を行ったほか、個人的な問題をどう他者とシェアするか考えること、粘土のワークショップの続きを行った。また、芸術祭会場で公開配信する「勝手にRADIO」のプランについての話し合いを行った。

  • 6月25日(土)オンライン、アートラボあいち

    オンラインとアートラボあいちで、「勝手にRADIO」のプランについての話し合いを引き続き行った。来場者から「最近あった嬉しかったこと」を投稿してもらうことや、悩み相談、海外アーティストにまつわる郷土料理を作るなどのアイデアが話された。

  • 7月2日(土)アートラボあいち

    それぞれがインタビューを担当するアーティストについてのリサーチや発表を行った。また、番組内で実施するコーナー企画のプランについての話し合いも行った。

  • 7月9日(土)オンライン

    「勝手にRADIO」の内容について、オンラインでミーティングを行った。うら・小山とメンバーの個別の相談や、メンバー同士での相談を実施。インタビュー以外にも、美術館で身体を動かす、美術館の庭で料理を食べる、来場者からの投稿コーナーなど、メンバーからさまざまなアイデアが出された。

  • 7月16日(土)アートラボあいち

    「勝手にRADIO」の内容や役割分担について、メンバーが主体となりミーティングをおこなった。プロジェクト開始時から、アーティストメンバーでのLINEグループを作っており、「勝手にRADIO」内で各自が担当するコーナーのテーマやアーティストへのインタビュー内容などは、LINEグループでもディスカッションされている。

  • 7月23日(土)愛知県美術館10階 プラスキューブ

    当プロジェクトの展示会場であり、「勝手にRADIO」の公開収録会場でもあるプラスキューブに集まり、展示作業や、実際の配信に使われる機材の配置をメンバーと一緒に行った。

  • 7月25日(月)愛知芸術文化センター付近

    街中で「勝手に席を作る」ワークを実施し、映像撮影を行った。椅子を持ち出し、それぞれ自分が座っていられそうな場所を探した。路上や地下街の隙間、建物の間の空間など、普段は通り過ぎる場所の中に、実際に座り、その感想も共有した。

配信スケジュール・内容

  • 開催日程(合計11回)

    7月30(土)~10月8日(土)

  • 開催場所

    愛知県美術館10階 プラスキューブ
    勝手にRADIO(youtubeチャンネル)

  • 配信内容
    7月30日(土)13:00~16:00
    Day1_勝手にRADIOについて、プロジェクトについて

    メンバー:岩崎はづき、大石理紗子、服部成美、宮本真緒、村上聖奈、森本真由
     ゲスト:山本高之(「あいち2022」キュレーター(ラーニング))

    プロジェクトのコンセプトや会場の展示、これまで実施してきたワークショップの紹介。
    各メンバーによる番組構想について。キュレーターの山本キュレーターとの鼎談。

    8月6日(土)13:00~16:00
    Day2_これまでやってきたこと/芸術祭のファーストインプレッション

    メンバー:石川真日呂、服部成美、宮本真緒、村上聖奈、森本真由

    各メンバーがこれまで調べてきたアーティストのことについてトーク。芸術祭の作品を鑑賞してのファーストインプレッション。

    8月13日(土)13:00~16:00
    Day3_地域に挟まる芸術祭

    メンバー:鈴木桃寧、石川真日呂、大石理紗子、岩崎はづき、村上聖奈
     ゲスト:飯田志保子(「あいち2022」チーフ・キュレーター(学芸統括))、山本高之(「あいち2022」キュレーター(ラーニング))

    地域に挟まる芸術祭をテーマにしたメンバー(鈴木桃寧)による架空の芸術祭プランについてのトークと飯田チーフ・キュレーターへのインタビュー。シリーズトーク「アッセンブリッとポリティックス」(ゲスト:山本キュレーター。誰かと何かをすることの周りにあるさまざまな要素について語る)。来場者からの「誰かにおすすめしたい作品」「最近うれしかったこと」についてのお便りを紹介する「勝手にお便りコーナー」(担当:村上聖奈)。

    撮影: あい撮りカメラ部 KUMAMOTOHITOSHI

    8月20日(土)13:00~16:00
    Day4_アイデンティティのメドレー

    メンバー:森本真由、岩崎はづき、鈴木桃寧、石川真日呂、服部成美
     ゲスト:ミルク倉庫+ココナッツ宮崎直孝・松本直樹・西浜琢磨(参加アーティスト)、山本高之(「あいち2022」キュレーター(ラーニング))

    メンバーによる若者文化(Instagram)とアートについてのトーク。メンバー(森本真由)によるアイデンティティについてのトーク。ミルク倉庫+ココナッツへのオンラインインタビュー。「韓国好き♡って?」をテーマにしたメンバーによる座談会。シリーズトーク「アッセンブリッとポリティックス」(ゲスト:山本キュレーター)。「勝手にお便りコーナー」(担当:岩崎はづき)

    8月27日(土)13:00~16:00
    Day5_人格の揺らぎの周りで起きること

    メンバー:大石理紗子、沖澤英莉菜、森本真由
     ゲスト:奥村雄樹(参加アーティスト)

    「いまの自分に係る記憶と影響の思い出」をテーマにしたメンバーによる座談会。「人格の揺らぎの周りで起きること」をテーマにしたメンバー(沖澤英莉菜)から奥村雄樹へのオンラインインタビュー。メンバーからの投稿映像「今日の友達コーナー」。「勝手にお便り」コーナー(担当:沖澤英莉菜、森本真由)。

    9月3日(土)13:00~16:00
    Day6_クィアの赤ちゃん

    メンバー:石川真日呂、大石理紗子、服部成美
     ゲスト:百瀬文(参加アーティスト)

    メンバー(石川真日呂、服部成美)による一宮会場からの中継「出張RADIOin一宮」。「クィアの赤ちゃん」をテーマにしたメンバー(大石理紗子)から百瀬文へのオンラインインタビュー。「今日の友達コーナー」(担当:石川真日呂)。「勝手にお便り」コーナー(担当:大石理紗子)。

    9月10日(土)13:00~16:00
    Day7_Nest Mates

    メンバー:石川真日呂、大石理紗子、沖澤英莉菜、鈴木桃寧、服部成美、森本真由
     ゲスト:AKI INOMATA(参加アーティスト)、岩下徹(舞踏家、小杉大介《異なる力点》出演)

    Nest Mates(巣の中に一緒にいる友達)をテーマにしたトーク(担当:石川真日呂)。「共感—共生—共存」をテーマにした岩下徹へのゲストインタビュー。「Nest Mates」をテーマにしたメンバー(石川真日呂)によるAKI INOMATAへのオンラインインタビュー。「今日の友達コーナー」(担当:石川真日呂)。「勝手にお便り」コーナー(担当:服部成美)。

    9月17日(土)13:00~16:00
    Day8_自分の領域 / My side of Nest Mates / 言葉がシェルターになるとき

    メンバー:石川真日呂、大石理紗子、沖澤英莉菜、服部成美、水野玲奈、森本真由
     ゲスト:遠藤薫(参加アーティスト)、和合亮一(参加アーティスト)

    「自分の領域」についての座談会。「My side of Nest Mates」をテーマにしたメンバー(石川真日呂)による遠藤薫へのオンラインインタビュー。「言葉がシェルターになるとき」をテーマにしたメンバー(水野玲奈)による和合亮一へのオンラインインタビュー。「今日の友達コーナー」(担当:石川真日呂)。「勝手にお便り」コーナー(担当:水野玲奈)。

    9月24日(土)13:00~16:00
    Day9_どうにもならないままでいけ

    メンバー:大石理紗子、服部成美、森本真由
    ゲスト:片岡真実(「あいち2022」芸術監督)、潘逸舟(参加アーティスト)、黒田大スケ(参加アーティスト)
    レシピ提供:シュエ・ウッ・モン(参加アーティスト)

    シリーズトーク「アッセンブリッとポリティックス」(ゲスト:片岡芸術監督)。「アイデンティティのメドレー」をテーマにしたメンバー(森本真由)による潘逸舟へのインタビュー。「どうにもならないままでいけ」をテーマにしたメンバー(服部成美)による黒田大スケへのオンラインインタビュー。様々なルーツを持つ海外のアーティストからのレシピとメッセージを紹介する「アイデンティティを食べる」コーナー(シュエ・ウッ・モンによるスパイシーたけのこ炒め)(担当:森本真由)。メンバー(服部成美)による「芸術祭で実況してみた」動画紹介と自作短歌の紹介。メンバーによる作品紹介「推し作品を語りたい」コーナー。「今日の友達コーナー」。「勝手にお便り」コーナー(担当:大石理紗子、服部成美)。

    10月1日(土)13:00~16:00
    Day10_いま、ここ、あなたとわたし

    メンバー:鈴木桃寧、村上聖奈、森本真由、服部成美
    ゲスト:宮田明日鹿(参加アーティスト)、野中美佳(ガイドツアーボランティア)
    レシピ提供:カズ・オオシロ(参加アーティスト)

    ケアについて「いま、ここ、あなたとわたし」をテーマにしたメンバー(村上聖奈)によるプレトークと宮田明日鹿へのインタビュー。「アイデンティティを食べる」コーナー(カズ・オオシロによる洋梨のサラダ)(担当:森本真由)。「地域に挟まる芸術祭」をテーマにしたメンバー(鈴木桃寧)によるボランティアへのインタビュー。「勝手にお便り」コーナー(担当:村上聖奈)。

    10月8日(土)12:00~17:30
    Day11_まとまらないしまとめない

    メンバー:森本真由、服部成美、大石理紗子、村上聖奈、沖澤英莉菜、奥村美優、水野玲奈、石川真日呂
    ゲスト:中村史子(「あいち2022」キュレーター(現代美術))、迎英里子(参加アーティスト)、ユ・チェンタ(参加アーティスト)、山本高之と猩々コレクティブ(参加アーティスト)
    レシピ提供:リリアナ・アングロ・コルテス(参加アーティスト)

    「地域に挟まる芸術祭」をテーマにしたメンバー(鈴木桃寧)による中村キュレーターへのインタビュー。メンバーによる振り返りリレートーク。迎英里子インタビュー(担当:服部成美)、「クィアの赤ちゃん」をテーマにしたユ・チェンタインタビュー(担当:大石理紗子、通訳:奥村美優)、鑑賞実験Stillalive短歌(担当:服部成美)、「勝手にお便り」コーナー(担当:村上聖奈)。

    「勝手にRADIO」チャンネルページで後日公開

プロジェクトメンバーアンケート

自分が知らない世界に飛び込むことができた。プログラムの内容からだけでなく、プログラム参加メンバーと話し、共に行動することでより知見を広げられた。参加してよかった。(無記名)

このプログラムでは、「勝手に測る、挟まる、抜け出す」というテーマのもとたくさんのプロジェクトを行ってきました。途中からの参加でしたが、アートを自分ごととして捉え、このプロジェクトもまたアートになるという特別な体験ができたと感じています。アート(特に現代アート)には詳しくなかったですが、このプログラムを通して新しいアートを感じられた気がしました。鑑賞者として楽しむだけでなく、アートを感じる、考えることができてとてもよい経験になりました。ありがとうございました。(無記名)

今回のプロジェクトは、お互いの課題を心理的に近い距離で紐解き合う機会となりました。日常会話では、自分の抱える困難や、それと切り離せない社会構造を捉え直すような機会はほとんどありません。しかしこのプロジェクトでは、そういったことにあえて目を向け、芸術祭やアートを手がかりにして対話を重ねることで、他者に伝えていきたいというエネルギーがありました。これは、現実との向き合い方を日々試行錯誤している自分にとって重要な時間となりました。このような場に参加することができたことをとても感謝しています。(服部成美)

踊ったり、ピクニックしたり、粘土をこねたり、木になったり、街や人に挟まったり、編み物したり、お便り紹介したり……振り返ると本当に色々なことをしました。リサーチプログラムとはいえ、ただの調べ学習ではないことが嬉しかったし楽しかったです。また、展示や「勝手にRADIO」では、自分は鑑賞者の立場でありながら、何かを発信し表現する側にもなるという不思議な体験をしました。普段考えている個人的なことをあいち2022の作品やアーティストと結びつけ、思いついたことをやってみるという経験から、芸術祭の新たな楽しみ方を学ぶことができたと感じています。(村上聖奈)

私の周りにアートが好きな人がそれほどいなかったので、このプログラムを通して共通の趣味を持つ知り合いができたことは嬉しかった。また、アーティストとかなり近い距離感で活動できたのが、本当にいい思い出になった。このネットワークを絶やしたくないなと心から思った。(鈴木桃寧)

会期終了まで参加できなかったが、プロジェクトに参加してとても良かったと思う。なぜなら、アート、そして社会で疑問に思うことを語り合う仲間ができたからである。普段はアートについて語る仲間がいなかったが、このプログラムを通じて新たなアートの見方やジャンルを開拓できて、良かった。そしてアート以外のこともアートを通じて話すきっかけができ、自分の価値観を広げることができた。さらに話したり、聞いたりすることで自分のなかにあったバイアスを見つめ直すこともできた。活動に参加する前とあとでは自分の生き方が生まれ変わったように違ったと思う。(岩崎はづき)

毎週違った視点で何かを見たり、自分の興味があることを絡めて考えたり、他者の考えを聞いて自分に混ぜ合わせたり。普段意識して行うことよりも一つ深まった思考体験ができてよかったです。(無記名)

最初は、この活動がどう集約されるのか本当に未知でした。しかし後々、このコツコツが、じんわりと活かされていくのを実感していました。自分の頭のなかに転がっていた破片との距離の測り方を知り、挟まりに気がついたことで、日常生活でも常に頭で何かをぐるぐると考えている状態でした。しかし、「活動による変化はありますか?」と聞かれたとき、パッと答えることができませんでした。しばらく考えたのですが、活動により、「こうなった!」というよりも、スッと体に染み付いた、という感覚に近いかもしれません。そういえば、母が、リタさんのレシピをとても気に入ったようで、よく作ってくれます。(森本真由)

4月から始まったラーニングの集まりは毎週土曜日、その環境は私にとって個の意見や存在が尊重されたセーフスペースとなりました。今回自分のジェンダーやセクシュアリティと初めてきちんと向き合う経験ができましたがそれはうらさんや小山さん、メンバーの皆が作り出した“良い雰囲気”のお陰だと感じています。期間中はとにかく色んな疑問をはっきりさせたくて、半年間考え続ける日々でしたがそれに対してきちんと何らかの形でレスポンスが返ってくることが良かったです。会期が終わった今は全てを結論づける必要はないというスタンスに落ち着きましたが、それでも違和感を違和感のままでは終わらせないようにしようと思っています。(大石理紗子)

アーティストの振り返り
「『わかる』にゴールはない」

談=うらあやか、小山友也

うら今回の作品は、芸術祭からの依頼が、ラジオ放送室というかたちのアウトプットで、プロジェクトの参加者も10代から20代、というのは当初から決まっていたんですよね。そのなかでちょっと変なことをしようと、小山くんと共有していたのが「(芸術祭の)無料の広報」にはしないという意識でした。

小山鑑賞者がピュアに芸術祭や作品の宣伝を自らしちゃうのは悪いパターンだと思いますし、「アートって面白いですよね」と言い始めたとしたら「いや、それはわからないよ?」みたいな疑問を投げかけないといけないなと。
タイトルを《勝手に測る、挟まる、抜け出す》としたのも、当初の僕らのアイデアにあった、まずプロジェクト全体の行き先を示すようなマインドマップをつくって、そこからテーマを抽出するということを選択せずに、参加者ベースで進めていこうという意識のあらわれだと思います。

うら結果的にワークショップやリサーチの“前半”、ラジオ放送の“後半”の2つに分裂していきましたが、「若者」としてラベリングされた状態で「意義深いことをしているようにみえる」ことは、無料の広報に最適な素材になってしまうので、個人の知性、感性を、芸術祭やガイド役のアーティストであるわたしや小山さんが消費しないでいるために、それぞれが「勝手に」やることが重要でした。
リサーチの一環として芸術祭の作品や作家を調べたりしたけれど、それを言語化する能力に長けた参加者が集まっていたのもよかったことで、そこから(ラジオ番組の)お便りコーナーみたいな、プロジェクトのコントロール外で自発的に展開するものもあって面白かったです。

小山アーティストにも実生活がありますが、そういう事情が見えづらくなるアートという「制度」のなかだけで作品を見るのではなく、アーティストが作品のなかで示しているアイデアを参加者が自分自身のこととして結びつけるようになることが大事なポイント。ワークショップでも作品を誰かが作ったものとして見るとか、美術館で作品を見るように街中にあるものを見てみるとか、そういうことをいろいろやりました。

うらでも全体のなかでは不安なターンもけっこうありましたね。例えば、他人にはあまり話せない、自分のナイーブな問題を告白してしまうとか。それだけ参加メンバー同士が信頼感を持てたということではありますが。

小山「挟まり」というテーマの時ですね。「社会の様々な物事のなかに挟まっている自分」という話をしたときに、僕らの説明が挟まりを「抑圧」として捉えるような方向に向かってしまって、重い空気になってしまいました。そういう時間もすごく大事だけれど、今回のように、参加者に個人的な問題を話してもらうことは、精神的に負荷がかかるので最初からそれを狙うのは暴力的だと思うんです。むしろラーニングの実施側は、自分たちが誘導していないか気を付けるべきだと思います。
でも自分自身の問題をアイデアに変えていこうとすれば、容易に対象化できないことが出てくるのは当たり前だし、地図を見るように俯瞰できないから自分にとっての問題にもなるわけで……。
だから真面目に正しくプロジェクトをやっていこうとしたら、やっぱり「芸術祭と自分をつなげよう」みたいなことはそうそうできない。とくに芸術祭みたいな催しは、アートに「よい顔」をさせて地元に根付かせようとするけれど、ステートメントに書いてあることは芸術祭のために準備されたことなので、それだけを受け取って作品と自分がつながらないのは避けたい、という話はたくさんしました。

うら作品を自分のなかに言語化するスピードに実感が追いついてないときには、あえて遠回りするみたいなこともたくさんやりましたね。

小山CSLAB(東京造形大学内で2010年から学生によって自主運営される創造センター)で僕たちは働いてきて、現代美術の制度やその学びに関わる迷いを持っている学生たちとやりとりしてきた経験がありますが、今回は美大生ではない人たちが参加する場だからこそ、どういうステップを踏んで進んでいくかは難しかったです。美術にまつわることも知ってほしいけれど、僕らとしてはそればかりに従ってほしくもない、という変なバランスでしたから。

うら「わかる」ということにゴールはないし、そもそもゴールを設定しえないものですから。でもなんとなくそれを参加者と共感できたと感じたときもありましたね。例えば作品の感想を短歌にする人が現れたこと。それって対象の作品を自分の制作に置き換えることであって、作品制作のプロセスでは、一般的な言葉とは違う種類の「言葉」が挟まってくるんだという経験をしてみることになるわけです。ラーニングといっても私たちは教える立場ではないから、そういうプロセスを経ることで「そうだよね。そうなるんだよね」ってことを参加者と確認し合えました。

小山そういう意味では、最終的に作品的なものをつくる方向に向かう人が多いのが面白かったです。すでにある芸術祭のなかでメンバーがショートカット的に(選ばれた作家ではないのに)作品を出品するのは大変な部分もありました。

うらそうですね。また、今回インタビューをしていない、事務局や行政などの立場から芸術祭に関わる人たちも積極的に巻き込めたら、さらにラディカルな活動もできたかもしれません。これはラーニングの領域からこそ作れる回路でしょうか。

小山仮定の大きな話になってしまいますが……、今回はラーニングプログラムと展示がタテ割りになった相互にアクセスしづらい形式でしたよね。例えば次回は、作品やキュレーションの間にいくつものラーニングポイントがあって、そこで学べるような、芸術祭の仕組み・構造をフルに活かせる位置の取り方が可能になると、もっと面白くなるのかもしれませんね。

(構成=島貫泰介)