LEARNINGラーニング
愛知と世界を知るためのリサーチ
『猩々大発生』山本高之と猩々コレクティブ
- 2022年
- 山本高之と猩々コレクティブ
- アーティストプロフィール
- コレクティブメンバー
- 有岡陽乃芽、安藤茜里、安藤陽子、石河ゆめか、池田彩花、磯野等、伊藤維花、岡本涼伽、小川愛、加藤久美子、加藤聡平、神谷多恵子、川村結生、喜田泉、城所豊美、近藤晶子、鈴木利弘、竹中純一、竹中房美、竹山満里子、圡屋真紀子、中尾美恵子、中村玲葉、沼田汀彩、羽富彩果、半澤奈波、平山亮太、藤井一真、前田拓杜、三島きょう子、山崎祐美子、山中海瑠、吉田有希
- ワークショップ参加児童館
- 愛知県児童総合センター、熱田児童館、せとっ子ファミリー交流館、前津児童館、緑児童館、港児童館
- 共催
- 愛知県児童総合センター
- 協力
- 川勝尚子、小西恒典(名古屋市秀吉清正記念館学芸員)、久野充浩(笠寺猩々保存会会長)、大高町中之郷祭礼保存会、猩々の会、笠寺猩々保存会、上名和祭ばやし保存会、北脇祭囃子保存会、名古屋市南区星崎地区の猩々
- コーディネーター
- 近藤令子
- 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
- 《猩々大発生》 2022
- 撮影: ToLoLo studio
活動記録
猩々の作り方のリサーチ
日時|2021年12月11日(土)
会場|笠寺猩々保存会会長久野氏の自宅
コレクティブ結成前の活動。山本と愛知県児童総合センターのスタッフ、コーディネーターで久野氏の作業場を訪問し、頭部や体の制作方法を伺った。
猩々大発生プロジェクト説明会
日時|2022年3月21日(月・祝)14:00~15:30
会場|アートラボあいち
内容|「猩々」に興味がある方、自分の住む地域の歴史を学んでみたい方、作ることが好きな方を対象に、「猩々」とは何であるのか、猩々コレクティブとして何をやっていくのかなどを紹介しました。
参加者数|8名
猩々をつくる(県内の児童館での活動)
自分が住む地域のユニークな風習に触れ、普段はあまり使わない素材や大きさのもの作りに挑戦するため、プロジェクトメンバー等が猩々制作の技術を指導し、県内6つの児童館で参加した児童たちと共に猩々制作を行いました。
参加児童館の募集は、愛知県児童総合センターに協力いただき参加を募りました。
愛知県児童総合センターでのプログラム
- 顔をつくる:
粘土をつかって、猩々の顔の前の部分と後ろの部分を作りました。実施日|2022年2月11日(金・祝)、2月13日(日)、2月19日(土)、2月20日(日)
参加者数|74名 - からだをつくる:
竹をつかって、猩々のからだの部分を組み上げました。実施日|2022年4月24日(日)、4月29日(金・祝)、5月1日(日)
参加者数|27名 - 髪をそめる:
猩々の髪の毛の素材を赤く染めました。実施日|2022年5月3日(火・祝)、5月4日(水・祝)
参加者数|14名
熱田児童館
- 顔をつくる:
粘土をつかって、猩々の顔の前の部分と後ろの部分を作りました。また、既にある粘土の原型に、張子をしました。実施日|2022年5月22日(日)
参加者数|11名 - からだをつくる:
竹をつかって、猩々のからだの部分を組み上げました。実施日|2022年5月29日(日)
参加者数|13名 - 仕上げる:
猩々の髪の毛の素材を赤く染めました。実施日|2022年6月12日(日)
参加者数|13名
せとっ子ファミリー交流館
- 顔をつくる:
粘土をつかって、猩々の顔の前の部分と後ろの部分を作りました。また、既にある粘土の原型に、張子をしました。実施日|2022年4月30日(土)
参加者数|32名 - からだをつくる:
竹をつかって、猩々のからだの部分を組み上げました。実施日|2022年5月7日(土)
参加者数|37名 - 仕上げる:
猩々の髪の毛の素材を赤く染めました。実施日|2022年5月21日(土)
参加者数|23名
前津児童館
- 顔をつくる:
粘土をつかって、猩々の顔の前の部分と後ろの部分を作りました。また、既にある粘土の原型に、張子をしました。実施日|2022年5月29日(日)
参加者数|13名 - からだをつくる:
竹をつかって、猩々のからだの部分を組み上げました。実施日|2022年6月12日(日)
参加者数|13名 - 仕上げる:
猩々の髪の毛の素材を赤く染めました。実施日|2022年6月26日(日)
参加者数|10名
緑児童館
- 顔をつくる:
粘土をつかって、猩々の顔の前の部分と後ろの部分を作りました。また、既にある粘土の原型に、張子をしました。実施日|2022年4月9日(土)
参加者数|13名 - からだをつくる:
竹をつかって、猩々のからだの部分を組み上げました。実施日|2022年5月5日(木)
参加者数|13名 - 仕上げる:
猩々の髪の毛の素材を赤く染めました。実施日|2022年5月21日(土)
参加者数|18名
港児童館
- 顔をつくる:
粘土をつかって、猩々の顔の前の部分と後ろの部分を作りました。また、既にある粘土の原型に、張子をしました。実施日|2022年4月24日(日)
参加者数|26名 - からだをつくる:
竹をつかって、猩々のからだの部分を組み上げました。実施日|2022年5月14日(土)
参加者数|16名 - 仕上げる:
猩々の髪の毛の素材を赤く染めました。実施日|2022年5月28日(土)
参加者数|21名
猩々をつくる(猩々コレクティブメンバーの活動)
アートラボあいちを制作現場に、毎週金・土・日・祝を作業日にして制作活動を実施しました。
活動期間[日数]|2022年4月3日(日)から7月3日(日)[35日間]
活動メンバー延数|184名
顔をつくる
- 1)粘土の原型に、新聞紙と障子紙で張子を施す
- 2)張子から粘土を抜き、張り合わせ、紙粘土の耳を取り付ける
- 3)全体にジェッソ(下地材)を塗布する
- 4)髪の毛の素材を柔らかくするため鋤き、赤く染める
- 5)顔を彩色し、束ねた髪の毛を取り付ける
からだをつくる
- 1)竹をちょうどいい長さに切る
- 2)結束バンドを使って組み上げる
- 3)座布団を取り付ける
衣装をつくる
- 1)布を切る
- 2)布を縫う
仕上げ
- 1)顔とからだをくっつける
- 2)衣装を着せる
猩々についてのリサーチ
コレクティブメンバーと共に猩々に関する見聞を広めるため、研究者や保存会の方から直接話を伺いました。
「猩々に関するレクチャー」
実施日|2022年7月10日(日)14:00〜15:00
ゲスト|小西恒典(名古屋市秀吉清正記念館学芸員)
猩々コレクティブメンバーとのリサーチ活動として、名古屋市博物館で1997年に開催された「大人形への祈り」展を担当され、地域民俗学や近代都市史を専門に研究されている、小西恒典氏を招き、この地域にある「猩々」について伺いました。
「猩々の歩き方講座」
実施日|2022年7月16日(土)
ゲスト|笠寺猩々保存会の方々
猩々コレクティブで制作した猩々を、笠寺猩々保存会の久野会長はじめとする会員の方にみていただき、さらに猩々の独特な歩き方について実演してもらいました。
猩々大行進
「あいち2022」のプレイベントとして、アートラボあいちから愛知芸術文化センターまでを約40体の猩々で練り歩きました。猩々役は、コレクティブメンバーの他に、一般参加者も募集しました。
実施日|2022年7月23日(土)9:30〜10:30
タイムスケジュール|
9:30出発(アートラボあいち)
9:50ヒサヤオオドオリパーク セントラルブリッジを通過
10:05中部電力MIRAI TOWER(旧名古屋テレビ塔)を通過
10:15オアシス21 緑の大地(地上階)を通過
10:30愛知芸術文化センターに到着
11:00到着式(愛知芸術文化センター)
猩々の数|39体
会期中のプログラム
猩々体験
ラーニングルームの外通路に、猩々体験コーナーを設置しました。また、体験者がいない時にはラーニングルームのスタッフが猩々となって、8階の通路を練り歩きました。
実施日|毎週土・日曜日、祝日
実施時間|10:30~17:30(12:00~13:00は休止)
参加費|無料
猩々サミット2022 秋
本物の猩々を、ラーニングルームに招待しました。展示されている猩々の前をステージにし、猩々を一体一体紹介していきました。
実施日|2022年9月17日(土)14:30~16:00
参加費|無料
サミット出演者|
・大高町中之郷祭礼保存会(名古屋市緑区大高町)
ペコ、ポコ、だんご
・猩々の会(名古屋市緑区鳴海)
アタラシ、フルババ
・笠寺猩々保存会(名古屋市南区笠寺)
1号、2号、子ども
・上名和祭ばやし保存会(東海市)
杓字(しゃもじ)、なんば、鬼牙神(きばかみ)、赤福大の姫(あかふくおおのひめ)、 三段、三升(さんじょう)
・北脇祭囃子保存会(東海市)
赤べえ、黒べえ、ちびまろ
・名古屋市南区星崎地区
星北の猩々
- 撮影: あい撮りカメラ部 KUMAMOTOHITOSHI(上左・上中)、あい撮りカメラ部 竹内久生(上右・中央・下3点)
猩々譲渡会
プロジェクト内で制作した猩々を、会期終了後に一般公募により希望した10団体に18体を譲渡しました。
プロジェクトメンバーアンケート
芸術祭をより楽しもう、と今回はボラだけでなく、プログラムも『猩々大発生』と『MA・RU・GO・TOあいち』の二股と欲張り、案の定、忙しくて大変でした。けれども、振り返ってみればコロナ禍にありながら、非常に充実した時間を過ごすことができました。やる、と決めた去年の自分とグータッチしたい気分です。
猩々制作に加え大行進にも参加し、自分が暮らす地域への愛着や親しみ、文化への関心度も高まったように思います。
次回もこの様な企画があれば、また参加したいですし、より多くの方にもお勧めしたいです。(加藤聡平)
私自身の趣味としてぴったりな企画であったことは置いておいて、アートと伝統の親和性がこれほどマッチするのかということを思い知らされたことはとても良かったです。
それから、アートの側から、中止している伝統の祭りに対してアプローチしたことで、とても良い刺激となったと思うし、それが祭りの再開にいい影響を与えるであろうことが想像できます。(磯野等)
猩々になってみたいと思い参加しました。大行進で猩々として街を歩けたので大満足です。これまで猩々は知りませんでしたが、歴史を学んだり作ったりするうちに愛着が湧きました。近頃、人間関係が職場だけと狭くなっていたので、コレクティブの方々との交流は息抜きになりました。学生ぶりに筆で色を塗ったり紙を貼ったりして、楽しさを思い出し、好きなことを見つめ直す時間になりました。充実した半年となり、参加して良かったです。(安藤茜里)
鑑賞者ではない別の立場から、芸術祭に関わりたいと思い参加しました。活動は想像以上に多様で面白く、アートラボあいちへ通うのが楽しみでした。猩々大行進などのパフォーマンス活動は非日常を感じられてテンションがあがりました。「猩々大発生」は芸術祭の3つの柱である「現代美術、パフォーミングアーツ、ラーニング・プログラム」の全てを経験できたプログラムだったと思います。猩々たちが譲渡されていった場所で長く愛されることを願います。(安藤陽子)
秋祭に猩々が現れる街に住んで二十余年になる。初めは、能の演目に登場する怪しい神様がこんなユーモラスな存在として老若男女に愛されていることに、とても驚いた。
この「猩々大発生」は、多くの人たちと猩々を制作しながら、猩々について話し考える、貴重な機会であった。なかでも、各地域で猩々を昔ながらの方法で作り、守っておられる皆さんとご一緒できたことが、強く印象に残っている。
今年、私の住む街では、コロナ禍のために秋祭が行われなかった。これで3年連続だ。来年こそは猩々が練り歩くのを見たい。そして、これからも変わらず、神様と私たちを繋ぐ存在であってほしい。(近藤晶子)
春から会期中まで、何日にもわたるプログラム(猩々の制作、レクチャー、円頓寺商店街での実演!など)を通して、地元名古屋に住んでいながら知らなかった古くから伝承されてきた猩々の奥深さに触れることができました。
芸術祭を観て楽しむだけでなく、ラーニングプログラムで体験を通して関わりを持てたことは貴重な体験となりました。
アーティストの山本さんはじめ、スタッフの皆様やたくさんの参加者の方々との交流もとても楽しかったです。どうもありがとうございました。(中尾美恵子)
感想はリサーチというか、実作業の方が多かった。工芸のように実際に制作を通して多数の猩々を完成させていった。このへんは人と人とが動いていきたいのであれば動機や作業の環境の改善を行い、そこで緩和・フォローがあればなと思う。
大きなイベントも良かったが、とても小さくとも工夫されたようなイベント?の場がいくつかあればなお良かった。
むすびとして、貴重な体験をつめ楽しかった。(藤井一真)
もうね、「楽しかった」のひと言につきます!
私は緑区に住んでいます。猩々は鳴海商工会で知っていましたが、それほど身近に感じていたわけでもなく「ああ、鳴海にいるな」っていう程度でした。ところが今回このプログラムに参加させていただき、とても親近感が溢れる存在となりました。最後に、アートラボから愛知県美術館まで練り歩いたのは二度とない経験でしょう。沿道の人達とふれあいながら、本来の猩々の姿を見たように思います。(無記名)
アーティストの振り返り
「非日常が立ち上がる瞬間の共有」
談=山本高之
猩々とは、愛知県南部の一地域で開催される祭りに登場する大人形です。猩々は、祭りを練り歩いたり、はやし立てる子供を棒を持って追いかけ回したりします。普段の生活と祭りをつなぐもの、日常と非日常をつなぐ存在としての猩々。芸術祭も一つの祭りであるならば、祭りと人々をつなぐ猩々は「ラーニング・プログラム」を象徴するものとしてふさわしいのではと考えました。
私は小学校教諭という出自柄、教育について考えることが多いのですが、そこでの物語/フィクションの役割はとても興味深いものです。例えば、秋田にはナマハゲがいて、「わるい子、なまける子」は大晦日に連れ去られてしまう。他にも、川遊びをしている時に水に引きずり込む河童、夜更かしする子供の目に砂を入れてくるサンドマンなど、現実とフィクションの境界が曖昧な子供たちに、教訓以上に恐怖をもたらしたり、時に大切な想像の友人であったりすることもあります。
猩々には彼らのような具体的な物語があるわけではありません。けれども、しっかりとした実存を持って、毎年祭りの時には私たちを全速力で追いかけ回していました。だけど結局、あれって何だったんだろう? 自分たちでもよく分からないからこそ、猩々はラーニング・プログラムのリサーチ対象として適切であり、興味がある人たちと一緒に猩々について調べてみたいと思いました。
猩々コレクティブの活動としては、メンバーとともに猩々がいる寺社を訪れ、専門家から話を聞くなどして、猩々について学びました。また、笠寺猩々保存会の久野充浩さんに伝統的な猩々の制作方法を学び、県内の児童館5館に集まった小中学生と猩々を制作しました。
猩々コレクティブの活動を通して見えてきた猩々の正体は、江戸末期、日本酒の一大産地だった愛知県南部の鳴海エリアで、お酒の「販売促進キャラクター」として始まったものでした。主に東海道沿いで、山車や神輿と比べその制作の手軽さから祭りの出し物の一つとして急速に広まっていったそうです。
私は以前、インドネシアの友人が猩々にそっくりなお面を祭りで被っているのを見たことがあり、「猩々の原型は東南アジアから海を渡ってきたのでは」という仮説を持っていたのですが、残念ながら、正しくはありませんでした。ですが、こうした発見自体もラーニングらしい成果と言えます。
私の仮説はともかくとして、猩々は東海道というストリートで始まった文化だということが分かりました。猩々の文化を今に伝える保存会などの方々の協力のもと、会期後半には「猩々サミット」が開催されました。サミットでは、各地域に伝わる本物の猩々が芸術センターに集まり、芸術祭という非日常に来場者をいざなってくれました。
猩々コレクティブは活動日を毎週末に決めましたが、参加を強制せず、その時に参加できる人が来るという、出入り自由の形式にしました。もともと、猩々について仲間内で話していたところがスタートで、興味がある人は一緒に調べてみませんか、という成り立ちの企画なので、自然とゆるやかな参加形式になりました。
猩々作りについても、伝統的な技術の伝承というほどハードルの高いことはしていませんし、エッセンスだけでも知りたいという軽い気持ちのものでした。コレクティブの参加者同士の間でも技術のやりとりがありましたが、そこで新しい作り方が開発されたり、伝言ゲームのようにズレていって、「ジェネリック猩々」が生まれたりしたことも面白かったですね。
繰り返しのようですが、猩々の伝統的な作り方を完全再現することが目的ではありませんでした。そもそも猩々自体、完全再現を目指すようなものではありません。当時、村で手先の器用な人が面白がって猩々を作り、わずか数年のうちに作り方が広まったと聞いています。その意味では今回、アートラボという実験室のなかで、猩々が爆発的に増加していくプロセスを再現できたことの方が、本来の猩々のあり方には沿っていると思います。
ラーニング・プログラムでは、私たち運営側/参加者側という垣根を取払い、ともに何かしらの発見や体験をすることが重要です。私たちも猩々のことを知らないなかで、分からないなりに試行錯誤して、いろいろな成功や失敗を共有させてもらいました。参加者の人たちも大変だったと思いますが、日常が非日常化し、アートが立ち上がる瞬間を経験してもらえたと思います。約40体の猩々が街を練り歩いた「猩々大行進」のように、参加者たちと一緒に日常に風穴を開けられたのは、私たちにとっても嬉しい経験になりました。
(構成=玉田光史郎)