展示・公演等
沖潤子
Oki Junko
- 現代美術
- 瀬戸市のまちなか
展示情報
- 国際芸術祭「あいち2025」 展示風景
- 沖潤子《anthology》2025
- ©︎ 国際芸術祭「あいち」組織委員会
- 撮影:城戸保
作品解説
anthology
瀬戸のまち並みを見下ろす御亭山には、砲弾を象った日清・日露戦争の忠魂碑と、太平洋戦争の戦死者のための慰霊塔、そして瀬戸の陶芸家を指導した愛知県出身の美術工芸家・藤井達吉(1881-1964)の工房「無風庵」が建っています。
この無風庵に吊るされた、刺繡が渦をなす赤い布のかたまりから、四方八方に糸が伸びています。足下を埋め尽くす陶土には、本作のために寄贈を呼びかけ集まった10万本近い針が刺され、糸はそこにつながっています。その様子は、折れたり錆びて使えなくなったりした針を豆腐などに刺す針供養を思わせます。そこにはまた、出征する兵士のための弾除けのお守りとして、千人の女性が布に一目ずつ赤い糸を縫いつけた千人針のイメージも重ねられています。
母が遺した洋裁道具を手に独学で刺繡を始めた沖潤子は、暮らしのなかで形を変えながら受け継がれてきたボロや古布に惹かれ、それらと対話をするように即興で針を刺してゆきます。その制作の根底には、太平洋戦争で物資が不足するなか、祖母が女学校に入る娘(=沖の母)のために襦袢や祖父のズボンを継ぎ合わせ、白い針目の往復で襟袖の白線を再現したセーラー服の存在があると言います。
作家の個性豊かな表現としての工芸を提唱した藤井達吉は、同時に主婦向けの雑誌やイベントを通じて家庭内の工芸(手芸)の普及にも努めました。こうした女性たちの膨大な針仕事の積み重ねのうえに、沖の表現は成り立っています。
会場
無風庵
プロフィール
- 1963年埼玉県生まれ。神奈川県拠点。
生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を制作。下絵を描く事なしに直接布に刺していく独自の文様は、シンプルな技法でありながら「刺繍」という認識を裏切り、観る者の根源的な感覚を目覚めさせる。古い布や道具が経てきた時間、またその物語の積み重なりに、彼女自身の時間の堆積をも刻み込み紡ぎ上げることで、新たな生と偶然性を孕んだ作品を生み出す。存在してきたすべてのもの、過ぎ去ったが確かにあった時間。いくつもの時間の層を重ねることで、違う風景を見つけることが制作の核にある。
- 主な発表歴
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- 2022
- 個展「沖潤子 さらけでるもの」神奈川県立近代美術館鎌倉別館
- 2021
- GO FOR KOGEI 2021「特別展Ⅰ工芸的な美しさの行方 工芸、現代アート、アール・ブリュット」那谷寺(石川)
- 2020
- 個展「anthology」山口県立萩美術館・浦上記念館
- 2017
- 個展「月と蛹」資生堂ギャラリー(東京)
- 2016
- 「コレクション展1 Nous ぬう」金沢21世紀美術館(石川)
- 《anthology》 2023
- FUJI TEXTILE WEEK
- Photo by Kenryou Gu