今、を生き抜くアートのちから

ARTISTSアーティスト

イー・イランYee I-Lann

  • 1971年コタキナバル(マレーシア)生まれ。
  • コタキナバル(マレーシア)拠点。

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2021年まで呉服屋だった空間では、かつて畳の小上がりで着物の反物が広げられたり巻かれたりしていたことが想像されます。その光景に呼応し、イー・イランの《ティカ・レーベン(マットのリボン)》(2020)が天井から舞うように展示されています。「ティカ」(tikar)はマレー語で編まれたマットを意味し、通常は床に敷かれます。こうしたマットを編む文化は、イーが活動する東南アジアからパシフィックの島々に至るまで、アジア地域においても広く分布しています。

イーが作品の重要なモチーフとするテーブルは、建築空間のなかで眼差しの高低差をつくり、植民地主義を経験した東南アジアの文脈においては統治者と被治者を象徴します。それに対しティカは、人々が集う場をつくり、床に敷かれることでより水平で民主主義的な態度や、家父長制への抵抗を示唆するものです。イーが生まれたマレーシア・サバ州の地元周辺では、農家による直売市場は「タム(tamu)」という名で知られています。植民地以前の時代から、ティカはこうしたタムでよく見かけるものでした。様々な、時に敵対関係にあった民族も集まり、互いの作物を交換する社会の縮図かつ出会いの場であったタムで敷かれていたのもティカでした。イーは伝統的なタムとティカから着想を得て、地域と社会地政学について現代の視点から論じています。

《ティカ・レーベン》のデザインは、編む技法や知識を伝達するために多言語・多世代の人々の間で受け継がれてきた、基本的な様式のインデックス、または「辞書」といえるものです。リボン状の《ティカ・レーベン》と併せて展示される映像作品が映し出すのは、このティカが伸ばされ、54mに渡って隔たっているマレーシアのオマダル島と、漂海民として知られるマレーシア系バジャウ族の編み手たちが住まう海上集落との間を繋ぐドキュメントです。このように織物は、2つのコミュニティをつなぐ文化的な架け橋となり、偏見に満ちた地政学的な風景を越えて、共通の文化的アイデンティティを讃えるものとなるのです。

イー・イランは1994年からマレーシアの映画産業で美術の仕事を手掛けた後、東南アジアの歴史を題材としたマルチメディア作品で、アジア地域の数々の国際展に参加。2018年以降、複数のボルネオ地域の人々やティカの編み手たちと共同制作を行っています。

主な作品発表・受賞歴
2021
第10回アジア・パシフィック・トリエンナーレ、クイーンズランド州立美術館|現代美術館(ブリスベン、豪州)
2021
「Art Histories of a Forever War」台北市立美術館(台湾)
2021
インド洋工芸トリエンナーレ、ジョン・カーティン・ギャラリー(パース、豪州)
2021
個展「Yee I-Lann: Until We Hug Again」CHAT(香港)
2021
個展「Yee I-Lann & Collaborators: Borneo Heart」サバ国際会議場(コタキナバル、マレーシア)

展示情報

AR08

  • 国際芸術祭「あいち2022」展示風景
  • 《ティカ・レーベン(マットのリボン)》 2020
  • 撮影: ToLoLo studio
開館時間
10:00-17:00

※入館は閉館の15分前まで

休館日
水曜日
会場・アクセス
旧加藤呉服店
  • 名鉄「有松」駅下車 徒歩4分